悪役令嬢セシリア。 悪役令嬢、セシリア・シルビィは死にたくないので男装することにした。

悪役令嬢、セシリア・シルビィは死にたくないので男装することにした。【電子特典付き】

悪役令嬢セシリア

翌日はオリエンテーションが組まれていた。 オリエンテーションの内容はスタンプラリーで、林の中のハイキングコースを自由にまわるというものだった。 ハイキングと言っても散歩の延長のような難易度で、貴族出身のヴルーヘル学院の生徒達も皆、スタンプラリーを楽しんでいた。 しかしその中で唯一、青い顔をした生徒がいた。 セシル・アドミナ、もとい、セシリアである。 (予期せぬ事態になった……) セシリアは緩い勾配を登りながら、空を見上げる。 彼女が思い悩んでいるのは、昨夜の部屋を覗いていた人物についてだ。 (先生に言ってはみたものの、いつの間にか足跡消えてたし、どうしたらいいのかなぁ……) 足跡を見つけてすぐ、オスカーは一番部屋が近かった教員、モードレッドに事の次第を報告しに行ってくれた。 しかし、モードレッドがそれを確認しに部屋へ来たときには、すでに足跡はなくなってしまっていたのだ。 オスカーとセシリアが足跡を見つけてから、わずか数分の出来事である。 (あんなにはっきりついていた足跡が綺麗さっぱり消えてるってことは、誰かが消したのかな? でも、人の気配は全くなかったし……) もし誰かが消したと言うことなら、あの側に誰か居なくてはならない。 しかし、それは不可能のように思えた。 セシリアもオスカーも、窓の外は一度確認している。 風が足跡を浚っていったとしか考えられなかった。 (昨日、風はそんなに強くなかったけどな……) 足跡のついていた窓の出っ張りは、建物を一周するようについており、犯人はどこかの部屋からそれを伝いセシリアとオスカーの部屋まで来たのだろう。 もし、部屋を覗いていた人物が、キラーならば、どうにかしないといけない。 「ふぁ……」 セシリアが思い悩んでいると、急に隣から間抜けなあくびの声が聞こえてきた。 確かめれば、目をこするオスカーがいる。 「オスカー、眠そうだね。 昨日寝られなかったの?」 「……まぁな」 含みのある声でそう言われて、セシルは首をひねった。 「もしかして、いびきうるさかった?」 「いや。 ……それよりも、さっきモードレッド先生に話を聞いてきたぞ。 今の段階では、まだなにも出来ないらしい。 一応職員会議でも話だけは出してくれたらしいが……」 明らかに話を逸らされた気もするが、セシリアは深く追求することなく「そっか」とだけ返した。 (多分、いびきがうるさかったんだ……) 頬が赤らむ。 いびきがうるさいなんて、淑女としてあるまじき失態である。 今は男だが、そんなものは関係ない。 今回のことを重く見たのか、オスカーも協力してくれていた。 協力者は何人居てもいいので、その善意はありがたく受け取っておく。 「それよりも、覗いていた相手に心当たりはないのか?」 「うん、全く」 オスカーの問いにセシリアは首を横に振った。 本当はあることにはあるのだが、今ここで言っても信じてもらえない上に、言えばいらぬ混乱を招いてしまうだろう。 それに、ギルバート以外に前世の話を告げる気には、なかなかなれない。 「オスカーは? 心当たりないの?」 「俺もないな……。 ダンテが林間学校に参加してたら悪ふざけでやりそうな気もしないでもないが、アイツは今回不参加だしな……」 ダンテというのはオスカーの友人で攻略対象だ。 少々やっかいな経歴と性格をしているので、あれと普通に友人をやっているオスカーには本当に尊敬してしまう。 「そっか」 「なんにせよ。 冗談ですめばいい話だがな」 「そうだよね」 セシリアがそう返したとき、背後に人の気配を感じた。 振り返れば優しい笑みを浮かべるリーンがいる。 「先ほどからお二人で、何をひそひそと話されておられるのですか?」 「リーン!? いや、これは……」 「お二人とも、とっても仲がいいんですのね!」 「そう見えるか?」 片眉を上げてオスカーが応える。 なぜかちょっと嬉しそうだ。 リーンは優しい笑みのまま二人に歩み寄った。 「何か困っているようでしたら、私にもお話聞かせていただけませんか? お二方の力になりたいのです」 「だ、そうだぞ」 「それは……」 セシリアは視線を落とした。 確かに協力者は多い方が助かる。 しかし、もし相手がキラーだった場合、リーンはそのターゲットになるのだ。 危険な目には遭わせられない。 それに、彼女には今晩大事な用事がある。 ジェイドとの例のイベントだ。 セシリアの未来も乗っている大事なイベントをこんな騒ぎで潰してしまうわけにはいかなかった。 セシルはリーンの肩をぎゅっと持つ。 「ダメだよ。 君を巻き込めない」 「でも!」 「これは、俺達の問題だからね。 俺は君を危険な目に遭わせたくない」 いつもの王子様スマイルでそう言えば、リーンではなく、周りの女生徒が黄色い声を上げた。 あまりにもテンションが上がりすぎたのか、くらくらと倒れてしまう者も居る。 「つまりお二方の秘密だから割り込むなと?」 「そう、だね」 二人の部屋を覗かれたのだから、『お二方の秘密』と言われればそうなってしまう。 彼女は間違ったことはいっていない。 しかし、彼女の言い方には何か違和感があった。 「お二方だけの秘密……。 それならば立ち入ることは出来ませんね。 もし何かあったらいつでも声をかけてくださいませ。 協力させていただきます!」 しかし、その違和感を吹き飛ばすぐらいのいい笑みを浮かべて、彼女は腰を折った。 女性のセシリアから見ても大変かわいらしい天使の笑みだ。 まさに慈愛の塊である。 彼女はそれだけ言うと、二人から遠ざかっていってしまう。 その先にはリーンの帰りを待ちわびたかのようなジェイドが居た。 落ち合った二人は何やら楽しそうに話している。 (やっぱりあの二人、仲いいな。 ……でも、こんなにおおっぴらに仲良くするのって、もう少し先の話じゃ……) ゲームの中では、まだリーンは恥ずかしがって自分からジェイドには近づけない時期のはずだ。 しかし、彼らは人目を気にすることなくイチャイチャと会話を続けている。 (ここら辺も少しずつ狂ってきてるのかな?) ギルバートが根暗に育たなかったように、これもゲーム通りに進んでいないことなのかもしれない。 セシリアは去って行った二人を見ながらそんな風に考えていた。 「で、今日はどうする気だ? あののぞき魔を捕まえるつもりか?」 オスカーの声で現実に引き戻される。 想い人 リーン が自分以外の他の人と仲良くしているのを見て気分を害しているかと思ったが、どうやらそんなことはないらしい。 彼の態度はいつもと変わらず、至って普通だ。 意外に器が大きい男である。 セシリアは頷いた。 「うん。 そのつもり」 「でも、どうやって捕まえるんだ? 相手の顔もわからないのに……」 「それには俺に考えがある!」 オスカーは驚いた顔でセシリアを見下ろす。 彼女は自信満々に胸を叩いた。 「俺が囮になる!」.

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「悪役令嬢、セシリア・シルビィは死にたくないので男装することにした。」の新連載がコミックウォーカーとニコニコ静画で開始: マンガのことを書いたブログ

悪役令嬢セシリア

気が付けば、選定の儀が始まってから五ヶ月が経とうとしていた。 八月ももう終わりに近づき、太陽の光もだんだんと穏やかなものに変わりつつある。 (体感的には短かったよなぁ……) チュートリアル戦闘を忘れ、大ポカをやらかした選定の儀から始まり、林間学校、姉弟喧嘩、拉致られ、無事に帰ってきたと思ったら大混乱の夏休み。 キラーが現れ、さらなる転生者が現れ、大捕り物をして、今。 これまでの日々を振り返りながら、セシリアは息を吐いた。 過ぎた時間もそれなりだし、内容もこれまでにないぐらい濃かった五ヶ月だが。 振り返ってみれば、怒涛過ぎてあっと言う間だった。 」 隣を歩くギルバートに、セシリアは涙目で待ったをかけた。 グレースからも神子になることを断られた翌朝。 いまだに現実を受け入れられないセシリアは過去を振り返ることで現実逃避をしていたのだ。 時間はまだ早く、周りに人はいない。 現実から目を逸らそうとする義姉を義弟はバッサリと切り捨てる。 「そんなことしても現実は変わらないんだから、もう切り替えたら?」 「そんなに簡単に切り替えられたら、苦労はしてないんだよー!」 セシリアは思わず両手で顔を覆う。 考えてもみてほしい。 『三番目の神子候補にすべてを丸投げする』という作戦は、もうどうにもできなくなったセシリアの最後の手段だったのだ。 騎士として認知されている今、ギルバートに宝具を返すわけにもいかない。 リーンのやる気が皆無の中、このままでは本当に自分が神子に選ばれてしまう。 そうなれば、待つのはBADENDという名のDEADENDだけである。 「神子なんて興味ないから! ただ私は、のほほんと人生を過ごしたいだけだから!! 」 ひよのとして過ごせなかった分も、セシリアで。 彼女にとっての望みはそれだけなのだ。 なのに現実がことごとくそれを邪魔してくる。 ギルバートは少し間を置いた後、セシリアを覗き込んでくる。 「神子になって、俺をそばに置くとかは考えないの?」 「いや、さすがにギルの人生は巻き込めないでしょ」 「巻き込んでくれればいいのに」 「そ、それは、どうにもならずに神子に選ばれちゃったときの、最後の手段で……」 最後の手段としてもセシリアとしては取りたくない手だ。 こんな粗末な義姉のために、かわいい義弟の人生を台無しにすることはできない。 「ほかの可能性を全部潰せばそうしてくれるってこと?」 「その返しだと、まるで私の聖騎士に選ばれたいみたいだよ?」 「そうだって言ったら?」 「もー。 そんなんだから、オスカーに『シスコン』とか言われちゃうんだよ?」 あくまで冗談にしかとらないセシリアに、ギルバートは笑みを向ける。 「シスターかどうかは怪しいけどね」 「どういう意味?」 「意識の問題ってこと」 セシリアは首をひねった。 たまにギルバートはこうやってセシリアにはわからない言い回しをすることがある。 やっぱり頭のいい人間の思考回路は、ちょっとわからない。 「でも、そうか。 神子になったら俺を選んでくれるってことか」 薄く笑みを作ったまま、ギルバートはセシリアに聞こえない声でそう呟く。 今まで義姉の言うことに従っていた彼が、初めて反旗を翻した瞬間である。 急に芽吹いたトロイの木馬に気が付かないままセシリアは口をすぼめた。 「そもそも! 私が神子に決定した時点で死亡フラグがすごいんだから、そんな危ない橋渡れないよ」 「じゃぁ、どうするの?」 「いやもう、こうなったら元凶断つしかないかなぁって」 「元凶?」 「『障り』」 その言葉にギルバートは眉を寄せた。 前のめりに倒れそうになった彼女をギルバートが支える。 「見て、見て!! 」 突っ込んできたのはジェイドだった。 どうやら話し込んでいたせいで歩みが遅くなっていたらしい。 背後を見ればぱらぱらと登校を始める人影が見えた。 いつになくテンションの高い彼は、手に何か本のようなものを持っていた。 「できた! とうとうできたよ!! リーン一冊目の本!」 どうやら無事リーンのBL本が商業化したらしい。 本気でどうでもいいのだが、モデルが自分なだけに内容が気にならないと言ったら嘘になる。 「ホント、いつも取材に協力してくれてありがとう! これ、献本ね」 「取材に協力してるつもりはないんだけど。 ……ありがとう」 本はありがたく受け取っておく。 自分がモデルだという点を除けば、彼女の物語は面白いのだ。 本当に、自分がモデルだという点を除けば…… 「異国の服の挿絵にも協力してくれたんでしょ?」 「え? あれ使ったの?」 「『一瞬だけだったけど、目に思いっきり焼き付けた』って、リーンが」 「……」 頭が痛い。 全国にさらされたチャイナ服姿の自分。 つらい。 目頭を揉めば、指に水滴が付いた。 つらい。 「セシル、ギル、おはー。 あ、ジェイドも。 おはー」 「三人とも早いな」 続けて声をかけてきたのは、オスカーとダンテだ。 ダンテのフレンドリーな態度に、ギルバートは眉を寄せている。 しかし、表情ほど嫌でもないらしく、ダンテが首元に腕を回しても、ため息一つで許していた。 オスカーは目が合うと少し頬を赤らめた後、咳払いをした。 (この件も本当にどうしよう……) ちゃんと決着をつけなければ……とは思うのだが、この関係が心地いいと思っている分、自分からは何も言えないのだ。 「だから! 人前だからそういうのやめろって!! 」 「ヒューイ様ってば、恥ずかしがりやさんですのね!」 「そういうんじゃなくって!! 」 「じゃぁ、続きは二人っきりの時に」 「だーかーらー!! 」 聞いたことのある声に後ろを向けば、今度はいちゃつくヒューイとリーンのカップルがいた。 二人の手はつながれており、それをヒューイが乱暴に振り払っていた。 それでもうれしそうなリーン。 (相変わらず、すごい擬態っぷりだな) 自分たちと接するときと、ヒューイと接するときとでは、彼女の態度はまるで違う。 でもまぁ、口調を変えただけで、性格は割と自由奔放な彼女のままなのだが。 リーンはセシリアと目が合うと、小さく手を振ってくる。 それに応えるように手を振りかえすと、隣のヒューイに睨まれた。 ツンデレのくせにいっちょ前に嫉妬はするらしい 「なんか平和だなぁ……」 セシリアは青空を見ながらそう呟く。 さて、今度はどんな困難が待っているのか。 それはまだ誰にも分らないのである。

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ionadev.ionagroup.com:カスタマーレビュー: 悪役令嬢、セシリア・シルビィは死にたくないので男装することにした。【電子特典付き】 (角川ビーンズ文庫)

悪役令嬢セシリア

気が付けば、選定の儀が始まってから五ヶ月が経とうとしていた。 八月ももう終わりに近づき、太陽の光もだんだんと穏やかなものに変わりつつある。 (体感的には短かったよなぁ……) チュートリアル戦闘を忘れ、大ポカをやらかした選定の儀から始まり、林間学校、姉弟喧嘩、拉致られ、無事に帰ってきたと思ったら大混乱の夏休み。 キラーが現れ、さらなる転生者が現れ、大捕り物をして、今。 これまでの日々を振り返りながら、セシリアは息を吐いた。 過ぎた時間もそれなりだし、内容もこれまでにないぐらい濃かった五ヶ月だが。 振り返ってみれば、怒涛過ぎてあっと言う間だった。 」 隣を歩くギルバートに、セシリアは涙目で待ったをかけた。 グレースからも神子になることを断られた翌朝。 いまだに現実を受け入れられないセシリアは過去を振り返ることで現実逃避をしていたのだ。 時間はまだ早く、周りに人はいない。 現実から目を逸らそうとする義姉を義弟はバッサリと切り捨てる。 「そんなことしても現実は変わらないんだから、もう切り替えたら?」 「そんなに簡単に切り替えられたら、苦労はしてないんだよー!」 セシリアは思わず両手で顔を覆う。 考えてもみてほしい。 『三番目の神子候補にすべてを丸投げする』という作戦は、もうどうにもできなくなったセシリアの最後の手段だったのだ。 騎士として認知されている今、ギルバートに宝具を返すわけにもいかない。 リーンのやる気が皆無の中、このままでは本当に自分が神子に選ばれてしまう。 そうなれば、待つのはBADENDという名のDEADENDだけである。 「神子なんて興味ないから! ただ私は、のほほんと人生を過ごしたいだけだから!! 」 ひよのとして過ごせなかった分も、セシリアで。 彼女にとっての望みはそれだけなのだ。 なのに現実がことごとくそれを邪魔してくる。 ギルバートは少し間を置いた後、セシリアを覗き込んでくる。 「神子になって、俺をそばに置くとかは考えないの?」 「いや、さすがにギルの人生は巻き込めないでしょ」 「巻き込んでくれればいいのに」 「そ、それは、どうにもならずに神子に選ばれちゃったときの、最後の手段で……」 最後の手段としてもセシリアとしては取りたくない手だ。 こんな粗末な義姉のために、かわいい義弟の人生を台無しにすることはできない。 「ほかの可能性を全部潰せばそうしてくれるってこと?」 「その返しだと、まるで私の聖騎士に選ばれたいみたいだよ?」 「そうだって言ったら?」 「もー。 そんなんだから、オスカーに『シスコン』とか言われちゃうんだよ?」 あくまで冗談にしかとらないセシリアに、ギルバートは笑みを向ける。 「シスターかどうかは怪しいけどね」 「どういう意味?」 「意識の問題ってこと」 セシリアは首をひねった。 たまにギルバートはこうやってセシリアにはわからない言い回しをすることがある。 やっぱり頭のいい人間の思考回路は、ちょっとわからない。 「でも、そうか。 神子になったら俺を選んでくれるってことか」 薄く笑みを作ったまま、ギルバートはセシリアに聞こえない声でそう呟く。 今まで義姉の言うことに従っていた彼が、初めて反旗を翻した瞬間である。 急に芽吹いたトロイの木馬に気が付かないままセシリアは口をすぼめた。 「そもそも! 私が神子に決定した時点で死亡フラグがすごいんだから、そんな危ない橋渡れないよ」 「じゃぁ、どうするの?」 「いやもう、こうなったら元凶断つしかないかなぁって」 「元凶?」 「『障り』」 その言葉にギルバートは眉を寄せた。 前のめりに倒れそうになった彼女をギルバートが支える。 「見て、見て!! 」 突っ込んできたのはジェイドだった。 どうやら話し込んでいたせいで歩みが遅くなっていたらしい。 背後を見ればぱらぱらと登校を始める人影が見えた。 いつになくテンションの高い彼は、手に何か本のようなものを持っていた。 「できた! とうとうできたよ!! リーン一冊目の本!」 どうやら無事リーンのBL本が商業化したらしい。 本気でどうでもいいのだが、モデルが自分なだけに内容が気にならないと言ったら嘘になる。 「ホント、いつも取材に協力してくれてありがとう! これ、献本ね」 「取材に協力してるつもりはないんだけど。 ……ありがとう」 本はありがたく受け取っておく。 自分がモデルだという点を除けば、彼女の物語は面白いのだ。 本当に、自分がモデルだという点を除けば…… 「異国の服の挿絵にも協力してくれたんでしょ?」 「え? あれ使ったの?」 「『一瞬だけだったけど、目に思いっきり焼き付けた』って、リーンが」 「……」 頭が痛い。 全国にさらされたチャイナ服姿の自分。 つらい。 目頭を揉めば、指に水滴が付いた。 つらい。 「セシル、ギル、おはー。 あ、ジェイドも。 おはー」 「三人とも早いな」 続けて声をかけてきたのは、オスカーとダンテだ。 ダンテのフレンドリーな態度に、ギルバートは眉を寄せている。 しかし、表情ほど嫌でもないらしく、ダンテが首元に腕を回しても、ため息一つで許していた。 オスカーは目が合うと少し頬を赤らめた後、咳払いをした。 (この件も本当にどうしよう……) ちゃんと決着をつけなければ……とは思うのだが、この関係が心地いいと思っている分、自分からは何も言えないのだ。 「だから! 人前だからそういうのやめろって!! 」 「ヒューイ様ってば、恥ずかしがりやさんですのね!」 「そういうんじゃなくって!! 」 「じゃぁ、続きは二人っきりの時に」 「だーかーらー!! 」 聞いたことのある声に後ろを向けば、今度はいちゃつくヒューイとリーンのカップルがいた。 二人の手はつながれており、それをヒューイが乱暴に振り払っていた。 それでもうれしそうなリーン。 (相変わらず、すごい擬態っぷりだな) 自分たちと接するときと、ヒューイと接するときとでは、彼女の態度はまるで違う。 でもまぁ、口調を変えただけで、性格は割と自由奔放な彼女のままなのだが。 リーンはセシリアと目が合うと、小さく手を振ってくる。 それに応えるように手を振りかえすと、隣のヒューイに睨まれた。 ツンデレのくせにいっちょ前に嫉妬はするらしい 「なんか平和だなぁ……」 セシリアは青空を見ながらそう呟く。 さて、今度はどんな困難が待っているのか。 それはまだ誰にも分らないのである。

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